自然と子どもの対話 〜自ら考え遊ぶ、生活が自然と調和する保育〜

集中して遊び込める環境

訪問日は生憎の雨天。しかし子どもたちは、水をたっぷり含む園庭を走り回ったり、水を桶にためて遊ぶなど、屋外で生き生きと過ごしている。建物と園庭の間には室内の延長のようにタープがかけられ、日陰となった空間には本棚が置かれている。絵本を楽しむ子もいれば、工具を使って木で何かを工作している風景、各々が思い思いに遊びに夢中になっている。保育士である訪問者は、子どもたちが生き生きと遊んでいるにも関わらず、ある種の静けさを感じた。つまり黙々と遊びと向き合えているようだ。

タープの下の遊びの場

変わり続ける園庭

園庭の俯瞰

「訪れる度に園庭が変わっている。夏には池ができたり、初めてみる遊具も増えている」設計者は度々、園に訪れているようだったが、そのように語ってくれた。竣工直後に撮影している建築写真を見ても、園内の遊具や置いてあるものは異なる。

園舎と園庭を囲うように水路を巡らせ、敷地内の井戸水をポンプアップで汲み上げ水路へと流し循環させていた。そこには、ヌマエビやヒルなどの生物も生息している。

園庭を巡る水路

他にも亀やヤギ、ウサギなども居合わせ、園庭を中心に生き物や水路、プール、遊びの道具、そして園舎がぐるりと回っている。つまり、重なる円環状に居場所が連なっており、子どもの走り回る動きから様々な遊びや過ごし方に派生できるようになっている。運動会などのイベント時に広いまとまった園庭を要するため、遊具を端に寄せるのが事例として多い中、この園の中心には山とジャングルジム、夏になると出現する「じゃぶじゃぶ池」があり、建築すら園庭を囲う居場所の一部となっている。まるで子どもが大地、山、水と対話し、変化する環境自体を遊びの舞台としているかのようだった。

井戸水を循環させる水路

保育園は子どもたちが安心して過ごせる場所であるために安定した空間が求められる一方で、子どもの個性や社会の変化によって変化を求められる場面も存在する。しかし、本質的なところで問題を見極め、保育への探究と実行力、管理能力がなければ変化は難しい。本質的に何が大切なことなのかを考え続けることに、変化が位置付けられ、その姿勢が園庭に鮮明に表れている。

園庭の広場

自然と子供の対話

川和保育園には所謂『雨樋』が見当たらない。屋根やテラスの雨水を運ぶのは、水を下に落とすガーゴイルのみ。

園庭の大木

テラスに降った雨は1階の石を積んで作られた集水桝に流れ落ちる。通常であれば建物の裏や角に沿う塩ビ管などの雨樋がなく、子どもたちが活動をしている園庭の見えやすい位置に滴り落ちる雨水は、雨量によって増減したり、重力を感じたり、水滴の落ちる音や跳ね方を観察できる自然の可視化とも言える。

木材で遊ぶ子ども

二階建ての園舎は、園庭に沿うように建ち、園舎の裏には雑木が育つ山を背にする。小さな山を切り崩す形で園舎を建て、山の中にも子どもたちの活動の場は広がり、ハンモックや斜面を生かしたすべり台、子どもが育てる畑などが点在している。

子どもが育てる畑
斜面のハンモック
園の全景

様々な風景が重なる園舎

園舎の外観

保育室は1階が0,1,2,3歳児の保育室、2階が4,5歳の保育室と絵本コーナー、会議室といった作りになっている。建物を3分割にし保育室を園庭から放射状に並べ、その各間に上下階をつなぐ階段と園の外と裏に出られる動線でつないでいる。玄関でもあり、空気の流れをうむ道にもなる空間が連続することで、子どもたちが心地よく生活できる場があった。

保育室の様子
平面図
配置図

また、各保育室の広さは、国から指導される基準面積の1.5倍程度の広さを有し、余裕を持って空間を用意することが空間の柔軟な変化を可能にしているようにも感じられる。

絵本コーナー

天井高さは前園舎の室内遊具が置けるよう設定され、その高さから自然光が取り込まれやすくなることにより、過度に照らしすぎる事なく1日の光の変化に呼応する空間となっている。

トップライトのある保育室

保育室の階段に面する位置には大きなトップライトを設け、屋外の延長となるような明るさと園庭への抜けが作られている。明暗の切り替わりが多様であり、様々な個性をもつ子どもの居場所作りにも繋がっている。

上下階をつなぐ階段
園舎の外周デッキ

園舎の裏には建築へのメンテナンスを可能にする工具や重機、作業場が設けられていた。メンテナンスが容易にできるよう、ホームセンターで買える部材を極力採用し、建築の維持管理も保育園側ができるように建築家に要望したと園長は言う。常に本質を探求し続ける環境への探究心が子どもの日常と呼応している。

建築のメンテナンスを行う作業場
断面図
ランドスケープ断面

【とにかくうちのことを分かってもらう】

前園舎
※前園舎

語り手:寺田 啓(川和保育園 園長)、井出 敦史(sum design)、加藤 克彦(TENJIN STUDIO)
インタビュアー:林、檜田

Q. 建築家とのやりとりを始める際、どのようにプロジェクトが始まりましたか?

寺田園長:うちの園は全部借地なんです。地主さんの関係で、土地のコーディネートを頼まれていたのがお二人だった。正直権利関係の部分が長かったですね。旧借地ということもあって借地権の部分とかいろいろな複雑なやり取りがあった。正直建築家の範疇を超えてますよ(笑)井出さんは保育園側の子どもたちの立場を守ることに主眼を置いて考えてくれていた。井出さんなくしてこの環境はなかったと思います。

井出:お互いがwin-winの関係を意識しました。まずは建築する前の土地の切り分け方を丁寧に調整しました。

Q. 互いの理念を理解し合う上でどういったことを実践されましたか?

寺田園長:とにかくうちのことをわかってもらうということですね。建築家の方が使っている人たちのことをどこまで考えて設計するかが重要であると考えています。作品性や奇抜性が優先されてしまう事例も多い中で、子どもたちの日々の保育の中でどう意味があるのか。子どもたちの生活の中で何が一番重要なのかをお二人には実際に前園舎に来てもらい感じてもらうことから始まりました。

井出:初めて前園舎を訪問した際には衝撃を受けました。設計に入る前に三年間、どの土地に新園舎を建てるかや、保育の環境として良い土台作りの相談からお話しを伺っていましたが、その間何度か前園舎を訪問する際に園の理念を理解していきました。

寺田園長:実は僕らが同年代で、何度かやりとりをするなかで、この人達は同じものを見て美しいと思える感覚を持っていると思いました。そういう意味では特に説明は必要なく、初めから信頼関係を持って進められました。

井出:私の親も建築家なのですが、本物のものしか触らせてもらえなかったんですね。おもちゃだったら所謂無垢の木材とか。本物が良いと思う感覚は、やはり幼少期にそういった経験をしたからこそだったと、園を見てよくわかりました。保育園に通うような時期が一番大事というのを身をもって感じましたし、私の子どもも川和保育園に入れたいくらいです(笑)

Q. 本物と過ごす価値とはなんですか?

寺田園長:身の回りの素材は、大人の都合や管理のしやすさに偏ると、管理しやすい偽の代替素材になってしまいます。その違和感を突き詰めると、必然的に本物になっていきました。プラスチック等が悪いわけではないですが、代替品にしていく意図がどれくらい確かなものなのか。そういった疑問を持ちながら大切に素材を選んでいきました。

井出:複雑な話ではなく、見ていて気持ちのいいものを使いましょうといったことが大切だと考えています。合理的になっていく建築に使われている素材には気持ちいいとは思えないものも存在します。時間が経って綺麗になっていくものでもないし、経年による美しさもないのです。種類が何が良いかというよりも、本物の木であるということ。木に塗る塗料も、コーティングしてしまうのではなく、オイルで仕上げて質感を残す。木の種類がどうというのはその先の話。本物の木に触れて生活しているうちに違いがわかってくると思います。これから先、そういったもので街が溢れてくれるといいなと思っている。そういった意味で、幼少期から本物に触れているというのはすごく大事なことだと思います。

Q. 数年建築と過ごす中でどのようなことを感じていますか?

寺田園長:ある意味で良いところも悪いところもないと思えるほど、違和感なく過ごせている。空間の使い方から見通しも含めて至って自然に感じるため、こうすればよかったが湧いてこないんです。

加藤:作り込みすぎなくてよかったと思っています。園の活動を見ているとそう思う。安易に色をつけるとその後の使い方を規定してしまいますし、保育の邪魔にならないように色使いには配慮をしながら進めていった。何も書かれていない画用紙のようなもの、色をつける判断はあくまで保育園側に委ねたいと思いました。

井出:我々はプラットフォームを用意し、そこで過ごす人が考えながら過ごす。建築のディティールは、その考え方をきっかけに変化しました。機能性を重視した機能美の良さに気がつけたんです。保育園建築は今回が初めてですし、初めて見た保育園は川和保育園です。必死に理解をしてよりいいものを作ろうとしました。

寺田園長:一見保育園には見えない色使いや、キャラクターや子ども騙しのものが一切使われていないのは良い点ですね。ものを全部どかしたらなんの建築かわからないですよね(笑)前の園舎には多少色も使っていましたが、この2人はそういったものも一切入れずに進めてくれたのでそれは尊重したいと思いました。

加藤:そういうのをやった方がいいかなと思ったこともあったけれど、それは生活や活動を規定してしまう気がしました。様々な活動を許容する器として設計することにこだわりました。

Q. 福祉と建築の可能性

加藤:お互いが垣根なく考えていけばいいと思います。保育園だから、建築家だからではなく、一緒に考えてモノづくりをしていく。お互いの視点から生活を考えていく。答えは一つではないので、様々な対話を重ねながら都度考えていくことが大切だと思います。

井出:相互理解ですね。お互いをリスペクトしあえる仲になっていきたい。そのためには、時間をかけた互いの歩み寄りが重要だと思います。初めの出会い方も重要ですが、その後の助走期間の過ごし方にこそ、相互理解の根幹があるように思います。

【保育と環境の相互作用】

福祉建築は、法人の理念をはじめ、建物の建つ環境、そこで起きる日常を写しだす媒体である。川和保育園では、敷地に対する建築と園庭の配置関係や、園全体をめぐる水路など、建築と子どもの応答関係を丁寧に築く設計を行っていた。その際にどのような対話をしていくかが重要となるが、川和保育園では自分達の理念を、前園舎の日常風景から伝え続けていた。また、建築だけが先行するのではなく、法人側の繊細な運営で下支えし、双方の歩み寄りから空間の運用と維持管理が成り立っている。

また、遊ぶことは子どもたちにとって研究のようなもので、川和保育園は研究材料に溢れている。自然を対象とした考える遊びと、遊具のような分かりやすい遊びが共存することで、子どもたちは個性と状況によって遊びを選び没頭している。建築や地形、自然現象全てが学びの対象そのものであり、子どもの成長に重要な「日常への気づき」を促しているのではないだろうか。

登場人物
井出敦史
建築家/SUM建築研究所
1971年東京都生まれ。1997年 Wentworth Institute of Technology 理工学部建築学科卒業。1997〜2002年 丹下健三・都市・建築設計研究所を経て、2002年 SUM建築研究所、2010年 現事務所に改称。
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加藤克彦
建築家
1974年東京都生まれ。1998年 東京理科大学理工学部建築学科卒業、2000年 同大学大学院修士課程修了。複数の設計事務所を経て、2002〜09年 SUM建築研究所。2010年 加藤克彦建築設計事務所設立、2012年 現事務所に改称。
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林恭正
建築家
1994年東広島市生まれ。2018年ドレスデン工科大学建築専攻特別派遣研究生を経て新潟大学建築学博士前期課程修了。2019〜2023年横浜の設計事務所 tomito architectureチーフアーキテクト。2024年、建築を軸に歴史・文化・慣習を編集し新たな価値を創造・発見する株式会社ArchTankを設立。「福祉と建築」副代表。
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檜田恭平
保育園 園長
2017年に大学を卒業後、保育士として現場の業務を6年務める。2020年から福祉と建築に参加。現在は福祉と建築の運営と小規模保育園の園長として、保護者支援や、より子どもの最善の利益を保証できる物的・人的環境の整備などに注力している。
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