活動と居場所を包摂する建築 〜多様な居場所とケア〜
アート・デザイン・ビジネスが分野をこえ、社会に新しい仕事をつくりだす拠点「Good Job! Center KASHIBA」。
Good Job! Center KASHIBAとは JR香芝駅から徒歩5分にある、奈良県香芝市にある障害福祉サービス事業所。障害のある人の社会参加や仕事づくり、生活を支援する社会福祉法人「わたぼうしの会」が、運営母体となっている。Good Job! Centerでは「就労継続支援A型事業」「就労継続支援B型事業」「生活介護事業」の3つの事業を展開している。全ての事業を合わせて、定員40名、現在登録者は約50名、1日あたり約30名の障害のあるメンバーが利用している。南北に分かれた建物では、「誰もがはたらく喜びを実感でき、主体性をもって暮らせる社会へ」をコンセプトとして、「クラフト文化」を取り入れた「工房」「アトリエ」、そして「流通から発信」が実践できる拠点として、障害のある人たちの仕事づくりの場所となっている。
1. ケアと建築について考える
福祉っぽさを感じない空間にある多くの配慮


南館の中に入ると、2階建ての建物となっていることが分かる。構造が複雑になっており、1階の建物中央では商品の販売やカフェ、エリアごとに様々な活動が行われている様子が見受けられる。「福祉」的な活動が行われている様子はすぐにはわからない。1階奥に進むと、複数の3Dプリンター他、加工ができる工房のスペースが出現する。




工房では、張り子をはじめとしたオリジナル製品が制作されている。張り子とは、竹や木材などで組んだ枠、または粘土で作った型に紙などを張りつけ、成形する造形技法のひとつ。Good Job! Centerでは、3Dプリンターで張り子の土台を作成し、和紙と新聞紙を貼り付け、絵付を行う。オリジナルの商品のほか、企業とコラボした商品も作成しているとのことであった。
制作に携わるメンバーの特性や多種多様な制作の内容に合わせて工房には、さまざまな工具が置いてある。一見雑多に見え「使いにくいのではないか?」と思うこともあったが、それぞれの人が使うなかで使いやすいように更新しながら場を工夫しているようだった。利用メンバーの身体や制作する商品に合った筆を選ぶため、一緒に筆を購入するツアーなども行なっているとのこと。「筆の歴史」を知ったり、筆が作られる過程を学びに行く機会になっており、道具や活動に愛着がわく取り組みで素敵だと感じる。
福祉の現場にいる者としては、つい当事者がいかに安全で、危険がない環境作りをしなければならないといった考え方が思い浮んでしまう。しかし、本人の興味関心を引き出すことで、当事者が、自分の居場所や役割を自然と探索できることに気付かされた。



場所の役割にとらわれないわけ
工房の近くには、大きなテーブル、大きな窓、壁を起点とした小スペースが存在していた。作業場所の役割の時もあれば、一休みできる休憩場所としての役割を担う場所となっており、使う人、タイミングによって居場所の役割が変わってくるとのこと。
障害を抱えている方の中には、コミュニケーションが苦手な方も一定数いる。特に他者の視線や声が気になることもあるのだが、大きな不定形な六角形のテーブルは座ってみると、視線が合わないような仕掛けになっていることに気づく。
設計を担当している大西さんに、構造についてお聞きすると「壁や床をあえて千鳥状に設計しています。空間の中に隙間を作って、『管理される』『管理する』という区分けをしていない。また、母体となっている『たんぽぽの家』(1973年よりアートやケアをテーマに活動する市民団体)の寛容さを参考とし、いろんな活動が許容できる空間を意識している」とのこと。
様々な活動が同時に行われているが、ランダムに設置された壁や床のおかげで、同じ空間に存在するが、視線は覗かないと見えない絶妙な環境となっていることを認識できる。隙間が存在するおかげで、自然と空間を越境しているように感じる。また、パブリックな空間は天井が高く、工房や作業ができる空間は天井が低く集中しやすい空間に工夫されている。

空間が繋がり、場所の意味が流動的であるため、1人の利用メンバーから、1人のスタッフへの役割の変化に対して自然と振る舞い方を変えている。相互に行ききできる構造が、良いケアの循環に繋がっているのだろう。



2階に上がると、流通の拠点となる倉庫とショップが存在している。ショップに陳列している商品は全国各地の障害のある人が関わる事業所や企業から取り寄せている。1点物の商品も多く、取り扱う商品は2000を超えるとのこと。入荷から発送、また店舗でのディスプレイまでの流通の仕事を「検品」や「商品管理」、「写真撮影」「オンラインストアへの掲載」「SNS発信」などに整理し、働く人の得意に合わせてチームで仕事を行っている。
外界からの刺激を調整できるさまざまな場所
続いて北館に向かう。北館は平屋の1階建ての建物。ベニヤと白壁を基調とした内装になっており、南館に比べ、静観な空間となっている。また、天井の高さに高低差がついており、個室の空間も存在する。
音や明るさ、人の視線を感じない場所の調整ができるようになっていることで、環境を自分で選択したり、スタッフがその人に適した場所へ誘導することができる。発達障害等を持つ方、多様な知覚に繊細な方もふくめて、その人のそのときの状況にあわせた居場所を調整することで、クリエイティブな働き方が行われていることが分かる。


また、同施設では初夏には「お蚕さんプロジェクト」として、蚕を育てる取り組みも行っている。蚕がいることで、利用メンバーもスタッフも一緒に蚕のお世話をする場面が出てくる。生き物を世話するということでケアする、ケアされるという役割をこえて一緒にすごす場所となっている。活動内容は『OKAIKOSAN お蚕さんとすごす1年間』として1冊の本にまとまっている。

2. 福祉専門職と建築家の協同について考える
語り手:森下静香(Good Job! Center KASHIBA センター長)、大西麻希(O+h設計)
インタビュアー:大谷、仲宗根
始まり(きっかけ)
森下:私は大学卒業後にたんぽぽの家に就職し、25年ほど働いています。今まで実際にケアの現場のほか、障害のある人の表現活動の調査や展覧会の企画などに関わっていました。今回、たんぽぽの家の長年の支援者のお一人から土地をご寄付いただいたのをきっかけでこのプロジェクトが開始。立ち上げのタイミングで関わってきました。
出会い
森下:2016年の開設に向けて、2013年の年末にプロポーザル(公募)を行ないました。当時は、どうやって建築家に出会うか知らなかったため、自社のHPの掲載と知人の紹介で「architecturephoto®」を紹介してもらい、公募を行ないました。2週間の募集期間で、合計103組の応募が集まりました。その後、2014年の1月から大西さんたちと設計にむけて取り組むことになりました。準備期間としては2年ほど。最初の1年は福祉事業所の視察だけではなく、流通の仕事や倉庫について考えるために様々な企業も見学させてもらい、現在のGood Job! Centerの建築の参考にしました。
大西:通常、公共建築を担当するには一定の実績がないと応募できないことが多いんです。ところが、Good Job! Centerの募集時には、設計者への条件がほとんど課せられなかったので、若手が参加しやすかった。


森下:審査は一次審査と二次審査にわかれていて、一次審査の選定時には「建築」「デザイン」「社会福祉」の視点でみていただける方たちにアドバイザーとしてかかわってもらいました。資料審査の一次審査を経て、最終的に二次審査で6組の建築家にプレゼンを行ってもらいました。o+hさんを選んだ理由として、私たち自身の活動としても決まっていないことが多かったので、柔軟な姿勢でかかわっていってくれそうだという可能性を感じたこと。また、私たちにとっても新しい土地から始まるプロジェクトだったため、建物自体に力があって、新しい仕事、いろんな人を連れてくる建物を作りたかった。

大西:プロポーザルコンペの要項が出た時に「障害のある人とともに」という理念を聞き、障害のある人とこれまで深く関わってこなかったことに気がついて。まず「たんぽぽの家」に見学に伺い、メンバーが思い思いに場所を見つけて活動をしていることに感銘を受けました。案内してくれたスタッフが「(建築をつくる時に)特に気をつけることはないですよ。自分達が気持ちが良い場所だったら、障害のある人にとっても気持ち良い場所でしょう。」とおっしゃって。言われてみたら、それがあたり前だなと腑に落ち、身体的に居心地が良い空間、寛容な空間を作りたくなりました。
歩み寄り
森下:大西さん達には、何度も東京から足を運んでもらいました。2年間の中で、月に1-2回程度、会議や視察を行い、都度模型を作ってもらって、イメージのすり合わせをしました。
大西:今回の設計は直角な部分が一つもない複雑な平面形状で、図面だけでは空間を想像しづらいと思ったので、子供の家くらいのサイズの大きな模型を作って、実際に森下さん達に見てもらいました。
森下:すごくわかりやすくて、イメージができました。建築の理解については、ハードルを感じませんでしたが、専門的な用語は聞いても分からないこともありました。例えば空調の方法が適切か分からなかったのですが、都度相談しながら1年ぐらいやって、必要なところにエアコンを追加したりしました。建って終わりではなくて、使い始めた後も相談しながら、調整できたことは、ありがたかったなと思います。
大西:完成した後に「ケアする側」「ケアされる側」の関係性が生まれない空間を目指していた、と森下さんがおっしゃって、ハッとしました。設計中そのことを明確に意識していたわけではないけれど、それはとても大切なことでした。
森下:スタッフでも利用しているメンバーでも、得意なことをいかしながらチームとして働いていて、その働き方を建築も支えてくれていると思います。

大西:この建築ができた時に、建築家の西沢立衛さんに「もっと窓が開けられて内外が繋がった方がよかった」とコメントをいただいた。その時に、「外に道路があって飛び出す危険性があるので入り口を絞った」と回答したんです。その時「街側が飛び出しても良い街に変わるべき」と言われて、なるほどと思った。インクルーシブな視点で空間を考えるとき、問題を一つの建築の中だけで解決するのではなく、通りや街にまで広げて考えていくことで、今まで当たり前だと思っていた建築や街の概念を変える可能性があると感じました。
森下:5年使ってみて、人や場所、活動をフルで使っていますが、窮屈であるとは感じていません。働くことと、自由に過ごすことが両立できる環境は贅沢だと実感しています。あとは、今でも、帰宅するときにも、光がもれている建物をみて綺麗だなと思うことも。日常の中で様々なシーンを見るたびに、この建物のよさを感じることがあります。

3. 「Good Job!」を育む拠点とは
視察やお話をお伺いする中で、「ケアが行われている場所」よりも「活動と居場所が許容され働き手の個性が生かされている」という感覚が似合う、まさに「Good Job!」が生まれる拠点であると感じた。
Good Job! Centerの活動や商品は、作り手と、作成する過程が多く発信されている。また、地域の産業と繋がり、プロジェクトや商品が作り上げられることで、商品を手に取るまでの過程と、作り手を応援したくなる力を感じることができる。
これからの福祉が目指す建築は、「ケアする人・ケアを受ける人が集まる目印としての建築」ではなく、働き手の創意工夫が生まれる「クラフト文化」を発揮できる役割を担うことが必要ではないか。だからこそ、建築と活動がリンクしている空間であるGood Job! Centerは、居心地よく働くことができる場所だと感じられる。
本記事が香芝だけではなく、新たなGood Job!が生まれる拠点が増えていく一助になれば幸いです。
2018年〜現在 社会福祉法人 福祉楽団に入社。
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