第3回「福祉と建築 – 知る・つながる・やってみる – 」イベントレポート
2022年7月2日、福祉と建築は日本財団との共催で「第3回 福祉と建築 ―知る・つながる・やってみる―」を開催しました。3331 Arts Chiyoda(東京・秋葉原)とオンライン(ZOOMウェビナー)のハイブリッドで、現地約100名・オンライン約350名、合計およそ450名にご参加いただきました。参加者は医療福祉の事務・経営層がもっとも多く、専門職、そして建築家が約25%。「福祉建築を発注する側」と「設計する側」が同じ場に集う一日となりました。本記事では、2本の基調講演、2組のケーススタディ、6組の建築家ピッチ、そして日本財団のセッションを、ダイジェストで振り返ります。
福祉と建築は2018年に秋葉原で始まり、この第3回で4年目。「福祉事業者と建築家の出会いの場」として、演者と参加者、そして参加者同士がつながることを願って開いてきました。今回はヘルスケアコミュニティ「SHIP」から生まれたこのイベントに、日本財団「未来の福祉施設建築プロジェクト」が共催として加わっています。
基調講演①「ケアとは」/ 飯田大輔(社会福祉法人 福祉楽団 理事長)
介護福祉士であり、京都大学こころの未来研究センター連携研究員でもある飯田さんは、介護・看護を「科学」として捉え直すことから話を始めました。「優しさ」「思いやり」といった情緒的な言葉だけで語ると、介護は間違った方向に進んでも気づけない。目指すべきは「良い介護(Good介護)」の実現であり、そのためにはまず「病気とは何か」を理解する必要がある、と言います。
医療が病気を「病変(取り除くもの)」と見るのに対し、介護は病気を「回復過程」として見る。咳も鼻水も発熱も嘔吐も、人間に備わった回復しようとする力の表れです。だから介護の仕事は、その人が持つ生命力(バイタルパワー)の消耗を最小にし、最大限に発揮できるよう生活を整えること。これは体力を温存することとは違います。
そして、良い介護のエビデンスは「人体の構造と機能」にあります。例えば発熱。体温が上がる局面(血管が収縮し顔色が青くなる)では保温を、下がる局面(発汗し顔色が赤くなる)ではクーリングと水分補給・着替えを――同じ38.5度でも必要なケアは正反対です。空気も同じで、室内の空気は人がいるから汚れ、吸った空気はすぐ体を巡る。「窓は開けるために、ドアは閉めるために作る」というナイチンゲールの言葉どおり、換気は人工装置ではなく窓で行うのが原則だと語られました。
人間には、口から食べて排泄する「生物としての側面(万人共通)」と、入浴や排泄の作法が千差万別な「生活を営む側面」がある。介護職が働きかけるのは「生活」であり、生活を整えることで心と体を良くしていく。だから福祉施設は、細胞膜のように「閉じてはならず、半透性(緩やかに外とつながる性質)を持つ」べきで、施設そのものは目的ではなく、良い介護を実現するための一つの過程にすぎない――そう締めくくられました。
基調講演②「ケアと建築」/ 長澤泰(東京大学 名誉教授・工学院大学 名誉教授)
建築計画学を専門とする長澤さんは、「建築の意匠学が目に見えるものを設計するのに対し、建築計画学は目に見えないものを設計する」という同僚の言葉を紹介し、エビデンス・ベースド・デザイン(証拠にもとづく設計)の立場から語りました。看護師の行動を計測して病棟を計画してきた研究の蓄積が、その背景にあります。
19世紀、ナイチンゲールが初めてつくった「ナイチンゲール病棟」の第一条件は「患者に害を与えないこと」。新鮮な空気・光・室温を供給し、1ベッドあたり約40立方メートルの空気容積、ベッド間隔1.5mを確保する。上げ下げ窓で自然換気する構造でした。ところが20世紀後半の病院は、機能と効率を求めて中央化が進み、「人体修理工場」のようになった。ゴフマンのいう「トータル・インスティテューション(全制的施設)」――起床も食事も消灯も一斉に管理される環境は、認知症の症状を悪化させる「施設病」を生みます。
そこで長澤さんは、21世紀は「病院(病の家)」から「憩院(そこに行くと半分治ってしまう場)」へ、と提唱します。英国では「Health is made at home, Hospitals are for repairs(健康は家でつくられ、病院は修理する場所)」と言われ、機能は分散し、ケアは地域・自宅へと開かれていく。ウルリッヒの研究(緑が見える病室の患者は術後の在院日数が短く鎮痛薬も少ない)やバイオフィリックデザイン、「空間さえあればいい(オペラハウスが本屋に生まれ変わった例)」、丹下健三の「美しきもののみ機能的である」――環境そのものが人を癒すことを、豊富な事例とともに語りました。
ケーススタディ①「福祉家と建築家が協働し、活動を共にする意味と可能性」/ 金野千恵(teco) × 馬場拓也(社会福祉法人愛川舜寿会)
神奈川・愛川町で特別養護老人ホームなどを営む愛川舜寿会の馬場さんと、建築家・金野千恵さん。二人はまず、施設の生垣(壁)を取り払う「壁を壊すプロジェクト」に取り組みました。防犯強化が叫ばれるなかで、あえて壁の向こう側の営みを地域に見えるようにする。「壁の向こうで行われてきたケアが、いかに閉じられた世界だったか」を問い直す試みでした。
その先に生まれたのが、2022年3月に開いた「春日台センターセンター」。閉店したスーパー跡地に、認知症グループホーム、小規模多機能、放課後等デイサービス、コインランドリー+洗濯代行(障害者就労)、コロッケスタンド、コモンズルームなどを、大きな屋根の下に集めました。6年半にわたる住民とのワークショップ(お土産議事録つき)から生まれた、街の軸線を生かす3棟構成。敷地を越境してひさしを伸ばし、人が集まる情景をつくっています。
打ち合わせ中、子どものシャボン玉が土間通りを抜けて上階の窓へ吸い込まれ、「空気が見えた」瞬間があったこと。子どもの声がBGMのように場を認識させること。福祉以外の動機(洗濯やコロッケ)で人が集まる生活動線に、認知症の高齢者や障害のある人がいることで融合が生まれること――「介護施設をそのまま山の中に落としても同じケアはできない。地域資源とつながっているからこそ、良いケアの追い風になる」と馬場さんは語りました。駆け出しだった設計者を「搾取の構造にしない」ためにフェアな契約を重ねてきた、という率直な舞台裏も共有されました。
ケーススタディ②「当事者と考える福祉と住まい」/ 大垣優太(U設計室) × 串田啓(社会福祉法人みねやま福祉会)/ モデレーター:田中れいか
京都・京丹後市の児童養護施設「てらす峰夢」を建て替えた事例。かつては25名が大広間で雑魚寝する「大舎制」でした。串田さんの発想は「施設を家庭的にする」のではなく「家庭を、児童養護施設として認められるギリギリまで施設的にする」こと。住宅設計しかしたことのないU設計室に依頼し、子どもの好きな素材から名づけた「積木の家」「ロボの家」「石ころの家」の3棟を建てました(石ころの家は、亡くなった小学5年生の子が通学路で拾い集めていた石ころから着想を得たもの)。各家に表札をつけ、あえて「死角」を残す。すると子どもたちが「2階に上がっていい?」「トイレに行っていい?」といちいち確認してくることに気づき、職員は自分たちが管理していたのだと立ち返ったといいます。
モデレーターの田中れいかさんは、児童養護施設で育った当事者。一時保護所を「刑務所みたい」と語り、退所後は学費も生活費も自分でまかなう苦学生だったこと、住宅支援と「居場所」に救われたこと、そして施設ではスリッパの音一つで誰かが分かるほど神経を研ぎ澄まさざるを得ず、休まらなかったことを率直に話してくれました。「働く人ではなく、そこに住む人・利用する人を中心に建物を考える」ことの大切さが、当事者の言葉から浮かび上がりました。
建築家ピッチ ― 6組の実践
- サムデザイン(井出)+天神スタジオ(加藤)/建て替えた川和保育園。1日の9割を園庭で過ごす園の環境を、斜面の緑を残しながら3棟構成で受け継ぎ、井戸を掘って水遊びの場をつくった。
- テレインアーキテクツ(小林一光)/アフリカ・ウガンダの教育支援施設と、日本の鹿島田保育園。5m角の箱をつなげ/閉じて、小さなグループと大きなグループが同時に居られる「居場所」を設計。
- フジワラボ(藤原)/街の時間軸・歴史の物語につなぐ設計。第1回で出会ったライフの学校と協働し、施設の庭を地域に開くプロジェクトなどを進行中。
- パトラック(安宅研太郎)/在宅医療クリニックの本拠地「かがやきロッジ」、軽井沢の「ほっちのロッヂ」、医療的ケア児のための「かがやきキャンプ」。専門職だけに閉じない、大小の多目的空間の集合。
- 原+吉岡研究室(発表:城間リカルド)/小規模多機能とクリニックの複合施設など、医療と福祉が中庭やダイニングでつながる、町に開かれた設計。
- ひだの森で熊は踊る(松本)/飛騨の広葉樹など、扱いづらいがゆえに放置されがちな森の木を生かすものづくり。福祉・教育の現場に「木のある空間」を届ける。
日本財団「未来の福祉施設建築プロジェクト」セッション
最後は、共催の日本財団・福田光稀さんの進行で、助成プログラム「未来の福祉施設建築プロジェクト」を紹介。「建築が変わり、福祉が変わり、町が変わる」をコンセプトに、ハードだけでも事業内容だけでもなく、その両者がどうリンクしているかを審査する、設計コンペと助成が掛け合わさったユニークな募集です(第1回は472件の申請)。
2021年度採択の2組が、事業者と設計者のコミュニケーションを具体的に語りました。Burano(秋山正明)× NIDO一級建築士事務所(飯野勝智)は、医療的ケア児とその家族・きょうだいのための場づくり。まずチームをつくり、審査員の書籍まで読み込んで徹底的にインプットしたこと、事業者と建築家の言葉のずれをディレクターがつないだことが印象的でした。二六会(篠崎一弘)× わくわくデザイン(八木稔文)は、昭和52年築の特養を段階的に改修し地域へ開く計画。全職員への説明会で「共感と共振」を丁寧に育て、洗濯コーナーを表に出したら利用者が担い手になり、地域の人がダンスの練習に来る――といった「予期しない出来事」が次々に起きたと報告されました。
篠崎さんの「介護を地域に返すために、地域に開く」という言葉、八木さんの「開くとは、ただオープンにすることだけでなく、いろんな人の“関わり代”をつくること」という言葉が、この日の議論を静かに束ねていました。
おわりに
「ケアとは何か」「ケアと建築」という二つの原理から、地域に開く実践、当事者の声、そして助成を通じた未来の福祉施設づくりまで。約450名で分かち合った一日を貫いていたのは、環境が暮らしとケアのあり方を左右すること、そして事業者と建築家が時間をかけて対話し、一緒にビジョンを育てることの大切さでした。福祉事業者と建築家の出会いが、明日の福祉実践をより良いものにしていく。福祉と建築は、これからもその伴走者でありつづけます。
本イベントは、公益財団法人日本財団との共催、ヘルスケアコミュニティ「SHIP」(株式会社omniheal 運営)のもとで開催されました。
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