病院・診療所を「ひらく」ことの意味と開き方 ― 4つの先進事例を訪ねた調査レポート
診療所が「まちにひらく」とき、何が起こるのか
在宅医療の現場にいると、「もっと早く出会えていたら」と感じる場面が少なくありません。医療や介護のサービスだけで人の暮らしを支えることには限界があり、地域の「互助」の力をどう育てるかが、これからの地域包括ケアの核心だと言われています。
そんな中、全国には、診療所や病院が「開かれた場」――診療業務とは直接関係のない、地域の人が自由に使える場所――を持つ事例が現れています。カフェ、コインランドリー、温泉、マルシェ。医療の顔をしていない入口から、地域と医療の新しい関係が生まれつつあります。
福祉と建築では、公益財団法人在宅医療助成 勇美記念財団の助成を受け、「病院・診療所をひらくことの意味と開き方」をテーマに、文献レビューと4つの先進事例の視察調査を行いました。このたび、その調査レポートを公開します。
訪ねた4つの事例
- ノビシロハウス亀井野(神奈川県藤沢市) ― 高齢者が入居を断られない賃貸住宅に、カフェ・ランドリー・訪問看護・在宅療養支援診療所が重なる。特別な「交流室」ではなく、軒下や外廊下といった生活動線そのものが交流の場になっていました。
- かがやきロッジ(岐阜県羽島郡岐南町) ― 在宅医療クリニックの建物の4分の3が、リビングやキッチンなど地域にひらかれた空間。「開かれた場は畑みたいなもの。自分たちがすべての種を埋める必要はない」という「200年の物差し」の運営思想が印象的でした。
- ソナタリュー(群馬県沼田市) ― 温泉とレストランという「誰もが来たくなる用事」に福祉を重ね、0歳から100歳までがごちゃまぜに交わる場。障害のある人の働く姿が自然に地域の目に触れる構造をつくっています。
- ヨリドコ小野路宿(東京都町田市) ― 病院が里山の古民家を改修し、カフェ・農園・蔵のギャラリーを持つ拠点に。「点ではなく面で」地域に関わり、住民の自主活動が次々に生まれています。
調査からみえてきたこと
レポートでは、「ひらく」を次のように捉え直しました。
「ひらく」とは、医療福祉事業者が、本来業務の外側にある日常の営み(住まう・食べる・洗う・湯につかる・買う・集う)を入口として、地域の人が「患者」以外の役割で――あるいは役割がなくても――関係の中に居られる場と機会を持つこと。
扉が開いていることと、「ひらかれている」ことは同じではありません。人が関係の中でその場所に居られるとき、はじめて場はひらかれます。
経営面ではっきりと見えてきたのは、ひらかれた場の効果は「集患」よりも「人材」に現れるということでした。採用や広告にほとんど費用がかからなくなったと語る経営者、全国から人が集まる法人、若い医師の学びの拠点になりつつある場。ひらかれた建築は、理念に共感する人を引き寄せる「環境という福利厚生」として機能していました。
そしてもうひとつ、大切な発見がありました。上手にひらいている場ほど、「閉じる場所」を丁寧に設計しているということです。住まいのプライバシー、スタッフが息をつけるバックヤード、コロナ禍で3年閉じることも許容する時間感覚。安心して閉じられる場所があるから、人も組織も安心してひらくことができる――「どこを開き、どこを閉じるか」の線引きこそが、開き方の核心でした。
レポートについて
レポートには、文献レビュー(「ひらく」とは何か・なぜひらくのか)、4事例の詳しいレポート、「閉じる場所」の考察、そして「開き方」のプロセス・空間の作法・運営の作法の整理を収めています。これから地域に開かれた場づくりに取り組みたい医療福祉事業者の方、それを支える建築家の方に、ぜひ読んでいただきたい内容です。
本調査は、公益財団法人在宅医療助成 勇美記念財団の助成を受けて実施しました。視察を受け入れてくださった各法人の皆さまに、心より御礼申し上げます。
(調査委員会:大谷匠・林恭正・中川翼・西井あずさ/アドバイザー:紀伊信之・日本総合研究所)
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