“余白”がつくる役割と居場所
「病気を治す医療」から「幸せを実現する医療」に、「かがやきロッジ」と「かがやきキャンプ」。
かがやきロッジ・かがやきキャンプとは かがやきロッジは、在宅医療専門クリニックの社屋と地域住民が自由に利用できるコミュニティエリアの機能がある。かがやきキャンプは、医療型特定短期入所と医療型短期入所(準備中)、メディカルフィットネスの機能がある。どちらも在宅医療専門クリニックを中心に事業展開を行う医療法人かがやきが運営母体となっている。かがやきロッジは、2019年グッドデザイン金賞を受賞している。
1. ケアと建築について考える
街の在宅医療専門クリニックにある“余白”


まず、かがやきロッジの中へ入ろうと、敷地内の庭を進むと、建物の正面には座って休みたくなる縁側がある。敷地の外と中の境界も緩やかで、少し中を歩いてみたくなる雰囲気を持っており、人が自然と「入っても良さそう」と感じることができる隙があるように感じた。
更に建物の中へ入ると、そこにも人がそこで自分の居心地の良い過ごし方を模索できる空間が広がっている。薪ストーブとソファ、小上がりになっている部屋の畳は掘りごたつにすることもできる。一見すると本当に在宅医療専門クリニックの社屋なのだろうか、という疑問が生まれてくる。
実際に、かがやきロッジにおける在宅医療専門クリニックとして必要なスペースは、建物の半分以下となっている。このように、建物内には、大きな余白がある。この余白が、地域住民の人たちが自由にくつろいだり、誰でもイベントスペースとして利用できるようになっている。

「地域住民が自由に出入りできる空間」としての構想は設計の段階からあり、空間の余白だけでなく、施錠するエリアも工夫されている。患者のカルテや麻薬を保管してある部分はしっかり個別施錠ができるようになっているが、それ以外の部分は「キーマスター」という、信頼できる地域住民でかがやきロッジの鍵を持っている人であれば、夜間でも出入り自由となっている。

また、かがやきロッジは、2階が吹き抜けであったり、部屋同士も明確な仕切りとなる壁がないことから空間全体がゆるやかに繋がっている。このことにより、建物内の2階で1人で過ごしていたとしても1階の人がいる雰囲気を感じることができる。ゆるやかな空間のつながりは、人と人とのゆるやかな関係性作りにも一役買っている。
一方、1人や少人数で過ごしたい人が自分の空間を確保できるようなスペースもあることで、人との繋がりの濃淡を調整しやすくなっている。
一見、在宅医療専門クリニックとしては不必要にみえるこの余白が、地域住民同士が繋がり、互助が生まれる場となったり、誰かの居場所となることで、街にとって重要なケアの役割を果たしていることがわかった。
空間が関係性を多様にする
かがやきロッジでは医師や看護師などのスタッフと訪れた地域住民たちが、掘りごたつやキッチンを一緒に囲むことがある。その場では、医師であることや患者であることは関係ない。
一般的な診療所で診療を受ける人は、白い空間、白衣を着た医療者が周囲にいる、などの環境から「患者」というその場に最も適した振る舞い方を無意識にしていないだろうか。場は人の振る舞い方を決める性質を持っている。このことから考えると、かがやきロッジの空間では、開放的な場やそこにいるスタッフの振る舞いからも「医療者」と「患者」としてだけでない人と人が向き合うことによる多様な関係性が生まれている。
関係性が多様になることで生まれる会話や協働作業が、より相談しやすい関係性を作り、地域と福祉の関係をより深めている。
200年後に思いを馳せながら

かがやきロッジは、院長である市橋さんの「200年間使うことのできる建築」という要望により、使用している木材は全て、古くなったら取り替えることができるようになっている。要望理由は「せっかく建てるなら200年使えるものの方がお得」「200年スパンでものごとを考えると目の前のことが急にワクワクすることに変わる」とのこと。
『地域の方々とのつながりを創出し「最後まで住みなれた家で暮らせる地域」を育む』という、かがやきロッジの目的を、世代を超えて繋いでいくという想いが建築にも表れている。
子どもたちのための刺激的な空間

かがやきキャンプは、医療型特定短期入所とメディカルフィットネスの機能を持つ建築として2021年に完成した。「キャンプ」という名前や「親子が小さなトライを続けられる場所に」というキャッチコピーから連想されるように、とても刺激的な空間が広がっている。


建物の中は、回廊型になっており、行き止まりがない。外周は窓も大きく外へのアクセスもしやすい。また、建物が回遊型であるだけでなく、車椅子に寝たまま建物に入ってきた子どもたちが飽きないように、天井にも工夫が凝らされている。起伏がある天井は、そのまま光の入り方にも影響する。そうすることで、子どもたちは、建物を移動する中で光刺激の変化を感じることができる仕組みだ。
更に、天井には一定の間隔を置いて、様々な形をした木の板が設置されている。これは、天井の起伏と同じように、車椅子に寝たまま移動する子どもたちに、季節や時期にあった刺激を感じてもらうための工夫である。

他にもかがやきキャンプにはプロジェクションマッピングを活用したリハビリプログラム「デジリハ」を導入している屋内プールが存在する。温度の変化が激しいと消耗する医療的ケア児への配慮のために室温管理に工夫が凝らされている。また、「デジリハ」を活用するだけでなく、プール内での浮力を使ったリハビリを通して、子どもたちも自信をつけることができる。ケアと楽しさ両方に配慮された空間だ。
このような、かがやきキャンプが生まれた経緯の1つには、施設長である藪本さんが設計時に安宅さんへ伝えた『「感じとる」楽しさ』というコンセプトがある。子どもたちが受け取る刺激1つ1つに配慮のある素敵な空間だった。

2. 福祉専門職と建築家の協同について考える
語り手:平田節子(医療法人かがやき 総合プロデューサー)、安宅研太郎(建築家・株式会社パトラック代表取締役)
インタビュアー:大谷、中川
ここからは、どのようにして福祉事業者と建築家が協業し、施設を築り上げたのか、医療法人かがやき総合プロデューサーの平田節子さん、建築家の安宅研太郎さんにお話をお伺いした。
大谷:まずは、安宅さんとの出会いについて教えてください。
平田:当時、町のコミュニケーションの場を作るにあたってお話を伺っていた西村佳哲さんから、『いま一番ノっている設計士』として安宅さんを紹介いただきました。でも、初めに紹介してもらった建物は、木造の幼稚園以外は、白っぽい建物が多かったり、遠野市でのプロジェクトはまだ完成していなかったりと、正直第一印象は『大丈夫…?』と思っていました(笑)ただ、これも西村さんのご紹介で繋がることができたし、何かのご縁だな、と思ってお願いすることにしたんです。
大谷:人からの紹介だったのですね。そこからどのように建築を作り上げられたのか、印象に残っているエピソードはありますか?
安宅:かがやきのチームメンバー全員の前で企画をプレゼンしたり、メンバーから質問を受けたりする場を設けていたことが印象に残っています。職種や立場によって気にされている点がそれぞれ違うことを痛感しました。(理事長の)市橋さんは地域や法人の未来を含めたコンセプトにこだわりを持っている一方で、現場の看護師の皆さんは物品庫の位置や細かい機器の配置等を気にされていて。最初は職員の方から厳しいご意見を頂いて若干へこんだこともありました(笑)。
様々な職種が集まる場での、建築へのアイデア反映の工夫
大谷:確かに、各職種や立場ごとにこだわりがありそうですね。職員の皆さんから意見を集めるために工夫されたことはありますか?
平田:急に施設が変わって職員が混乱しないように、建築設計の段階ごとに職員から意見をもらい、状況共有することを意識していました。また、実際に利用するのは職員なので、建物のエリア毎に担当職員を割り当てました。エリア毎のディティールは各担当者に要望をまとめてもらう形にしたんです。それを元に、各エリアから集められた要望と、エリアごとの相関図を作成しました。私たちが最初に手掛けたのはそこまでで、その後の細かい間取り自体は、相関図を元に安宅さんに考えて頂いたんです。それ以外にも、建築の細かい点やコスト面は安宅さんにお任せしていました。

安宅:幼稚園の建築に携わった時にも職員の意見を聞く機会は設けていましたが、幼稚園と違って職種が多い点がなかなか難しい。全職種の要望を叶えると、予算も面積もどんどん上がってしまいます。かといって有限な予算の中でやりくりしようとすると各職種の担当エリア同士で予算や面積の取り合いになりますよね。そのあたりの職員間の調整に平田さんが入ってくださったことで、スムーズに進めることができました。ダイレクトに職員各自とやり取りするのではなく、間に人が入ってくれる事によるありがたさを感じましたね。
大谷:実際に施設が完成してみて、感じたことや想定していたところとのギャップはありましたか?
平田:できてみないとわからない部分が沢山ある!例えば、リビングの使い方。外部の人にも開放する想定だったので、当初は『外部の人が通る横で職員も食事を取るなんて考えられない』と声が上がり、お昼に食事を取ることができるように更衣室を広くしたんです。でも実際施設ができてみた今では、みんな全然気にせずにリビングでご飯を食べています(笑)建築ができる前にも機能自体は確認できますが、使い方や施設の詳細は入ってみないとわからないですね。
大谷:実際に出来上がった建物に入ってわかる発見があるというのは、プレゼントを開けるときのようで、ワクワクしますね。他にも、建築士と一緒に施設を建てて良かったなと感じたことがあれば教えてください。
平田:居心地の良い場所が出来上がること。病院や施設らしい場所では、対話を通しておうちらしさやその人の居場所を作る、といったケアの話が重要になったりしますが、おうちのような施設であれば、一人でぼーっとしていても居心地良くいることができる。場が居場所を作ることもできるんだな、と。ケアといえば人が人を常に支援する、という印象がありますが、『ただそこに居ても良い』という居場所作りも、またケアだと感じています。これは地域の方や時折に訪れる患者さんだけでなく、職員もこの場にケアされ癒やされています。
場が居場所を作る、人は場に順応する
平田:先程のリビングの話にもありましたが、人は場に順応しようとする力を持っています。その場が一般的な医療施設「らしく」あれば、職員も「らしさ」に順応します。『らしさ』の中にいることは、苦しくないですか?もちろん、効率や衛生面だったり、様々な面を重視した上で、福祉業界の施設が似通った建築で似たようなケアを実践する形になっているというのは理解できます。でも、その『らしさ』が最近はもう皆苦しくなってきてしまっていると思うんです。逆に考えると、らしくない場であれば、らしさに縛られずに職員が「その人らしさ」を出しながら、もっと自由なケアが実現できると思うのです。
大谷:なるほど。以前、安宅さんと対談した際の、建築が人に提供する『こうあるべき』という概念を取り払い、余白を作ることでその人らしさを表出しやすくする、という話を思い出しました。
平田:そうですね、そこに置いてあるグランドピアノも、元々はスタッフが家に余っていたアップライトピアノを持ってきたのが始まりでした。ピアノがあるなら、とピアノ教室の先生をお呼びしたところ、今度はピアノ教室の先生が使われていなかったグランドピアノを持ってきてくださいました。「あの人って、あんなにピアノが上手だったの?」、仕事の時には見せていないその人らしさが現れることがあります。場があると、「らしさ」の隠されていたその人自身が表出し、モノやエネルギーが集まってくる。建築の持つ『場のエネルギー』を感じています。
大谷:かがやきの建物は余白を多くとっていますが、採算を考えて躊躇することはなかったですか。
平田:単純な売上と建築費用だけ考えればそうかもしれませんね。でも、スタッフみんなの夢を詰め込んだら大きくなってしまって、緻密に採算を考えないまま建築しました。でも、建ってみたら実は十分採算があいました。うちはほとんど採用費をかけていませんが、この5年で職員は30人増えています。場が持つ力があるので、広告費もかけていないのに自然と見学者がきてくれて、そこからうちに入職してくれる人がいたりします。こうやって取材いただけるのも、場が持つ力があるからだと感じています。『地域の方々とのつながりを創出し「最後まですみなれた家で暮らせる地域」を育む』という目的で、建築を建てましたが、単純な建築費用と売り上げだけでは測れない効果が法人としてもあったと感じています。
3. 居場所に必要な“余白”
視察させていただく中で、建築の中の大きな余白が、地域住民やスタッフの創意工夫を産むきっかけになっていると感じた。役割の決まっている部屋や空間以外の決まった役割を持たない空間が人をつなげ、人に役割や居場所を与えている。
近年、高齢者福祉施設や児童福祉施設でも地域交流を目的とした空間を作ることを後押しする動きもある。高齢者や児童など対象を限定するような福祉サービスを提供する建築が、より多様な人を受け入れることができる空間を持つことで、多様性との出会いの場となり、地域でケアを学ぶことができる生涯学習の場となるのではないか。
本記事が地域の居場所となる拠点が増えていく一助になれば幸いです。
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